階段を上るだけでゼイゼイと息切れがする……。「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」という病名を耳にしたことがあるでしょうか。
若い女性でも発症することがあり、妊娠・出産や子育てといったライフイベントにも関わるこの難病を一人でも多くの人に知ってほしい、患者さんに正しい情報を届けたい。医療用医薬品を扱うヤンセンファーマ株式会社が去る5月27日に、PAH専門医や患者さんとともに「60 minutes together –PAHバーチャルキャンプ–」をオンラインで開催。ココフル編集部も参加してまいりました。
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肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、心臓から肺へ血圧を送る血管、肺動脈の血圧が高くなる病気です。心臓や肺の病気が原因となることもありますが、原因がはっきりと分からない場合もあるのだそう。ただ、女性が男性の約2倍と多いこと、また患者さんの年齢層が幅広く、若い年代でも発症することが分かっています。
「この病気は、お子さんがまだ小さい女性や、妊娠する世代の女性に非常に多いのが特徴です」と話すのは、PAH治療の第一人者である田村雄一先生です。
患者さん、ご家族、先生方がオンライン上で集い、PAHの今とこれからを考えるバーチャルキャンプは、田村先生による病気の説明、診断や治療についてのお話からはじまりました。
国際医療福祉大学医学部循環器内科 教授 国際医療福祉大学三田病院肺高血圧症センター代表 田村雄一先生
PAHは100万人に1~2人が発症する稀な病気です。完治は難しいとされてきましたが、最近は薬の開発が進み、早期に発見されれば病気の進行を抑えることが可能になりました。この病気と闘っている患者さんは年々、増えているのです。
けれどあまり知られていない難病のため、診断されるまでに何年もかかったり、闘病中も仕事や日常生活などで周囲の理解やサポートが得られにくいこともあるといいます。
PAHバーチャルキャンプは、患者を代表して重藤啓子さん(NPO法人 肺高血圧症研究会 代表理事)の講演へと続きます。
声楽家の重藤さんが最初に「階段をするすると上れない」と感じたのは、イタリアに住んでいた2000年頃のこと。運動不足だろうと思っていたら、あるとき坂道を歩いていて息苦しさで失神し、「何かおかしい」と病院を受診します。しかし、PAHと診断されたのは3年後だったそうです。
「診断当時は余命2年と告げられたけれど、それから17年が経ちます」という重藤さん。「長生きするために気をつけていることは、コツコツと楽しいこと、やりたいことをすること。困ったときに助けてくださいと言うことです。もしも身近に困っている人がいたら、みなさんどうか手を差し伸べてください。私たち患者の会にもご相談ください」と力強く話します。
NPO法人 肺高血圧症研究会 代表理事/声楽家 重藤啓子さん
日本には現在約3,700人のPAH患者がいますが、潜在的な患者数はもっと多いと考えられています。重いものが持てないため、
「買い物で大根を買って帰ることができない」
「子どもを抱っこすることができない」
見た目では分からなくても、このような苦しさを抱えながら病気と闘っている患者さんが、身近にもいるかもしれないということ。
それに、階段を上ったり早歩きをするだけでゼイゼイとするつらい息切れ、めまい、疲れやすさなどは、年齢や運動不足のせいと思いがちですが、病気のサインという可能性もあると知りました。
以前は治療薬がなかったPAHですが、「今は生きるための治療、充実した生活を送るための治療ができるようになってきました」と田村先生。診断が難しい病気ですが、薬で病気の進行を遅らせることができる時代だからこそ、早期発見・早期治療がとても重要だと話します。
PAHやその他の慢性呼吸器疾患を診断するとき、治療の経過観察をするときに行われる検査のひとつに“6分間歩行検査”があります。どれだけしっかり歩けるかが大切な検査ですが、患者さんにとって息苦しさと闘いながら一人で歩く6分間は、精神的にも肉体的にも長く、苦しい時間に感じられるといいます。
ヤンセンファーマは、PAHと闘う患者さんとその家族が少しでも前向きな気持ちになれるように、一人でも多くの人にこの病気について知ってもらえるようにと考え、6分間歩行検査と音楽とを掛け合わせた疾患啓発プロジェクト「6 minutes together(シックスミニッツトゥギャザー)」を始動。世界40組のアーティストが寄せた6分間ちょうどの楽曲をまとめてプレイリストを作成しました。
歌手の一青窈さんもこのプロジェクトに協働。PAHについて学び、患者さんにインタビューをして歌詞を書き下ろした楽曲「6分」に込めたメッセージとともに、ミュージックビデオが披露されました。
「歌詞にアサガオという言葉が出てきますが、桔梗の花をさします。つぼみは小さな緑色で、風船のような形をしていますが、やがて青紫に色づいて、花が開くと星型になります。患者さんの1歩1歩が実を結んで花が咲きますように、未来に明るい希望の星が輝きますようにという思いを込めました」と一青窈さん。
「6 minutes together」のプレイリストは、世界で最も人気のある音楽ストリーミングサービスSpotifyで公開中。会員登録をすれば無料で聞くことができます。
Spotify プレイリストはこちら>>
患者とその家族、医師。医薬品を扱う企業と、応援するミュージシャン……。大きな壁を越えて、「難病と闘うときも、自分らしく楽しみながら生きることが大切」と手をつないだ60分間のバーチャルキャンプ。とても貴重なメッセージを受け取ったように思います。
子育て中のママは、自分の体のことは後回しにしがちかもしれません。健康診断は毎年受けているでしょうか? もしも気になる症状があるときは、早めに病院へ。大切な家族のためにも自分の体を大切にすることから、思いやりの1歩を踏み出してみませんか。