キッチンメーカーのクリナップが武蔵野美術大学との産学協同研究で開発した「次世代キッチン」が2024年3月7日に発表されると聞き、取材に行ってきました。
目次
この日お披露目されたのは、1人でも持ち運びができるという「モビリティキッチン」のプロトタイプ(試作品)です。循環ろ過器のついたシンク、食器なども収納できる調理台、バッテリー電源のIHコンロという3つのユニットからなり、いずれもキッチンに固定せずにリビングやベランダに置いて調理をしたり、車に積んでアウトドアに持って行ったりと好きな場所で使うことができます。
また、災害時には避難所などに「モビリティキッチン」を持ち寄って、食の支援に貢献することを想定した「いつも」と「もしも」を両立するキッチンでもあります。
クリナップでは2019年から武蔵野美術大学と共同で「キッチンの未来ビジョンづくり」をスタートし、「個人」「家族」「社会」を豊かにするキッチンの未来像を描いてきました。
そして、2023年2月にキッチンの“脱LDK”をテーマとした「未来キッチンプロジェクト」を発足。
「コロナパンデミックを経験し、2拠点生活やワーケーションなどライフスタイルの多様化が加速する中で、キッチンはLDKの中で固定されたままでいいのだろうかという疑問を持つようになりました」と話すのは、クリナップの代表取締役でありプロジェクトリーダーでもある、竹内 宏社長です。
なお、“脱LDK”を実現するにあたり課題となったシンクの給排水は、フィルターを制作している株式会社三美製作所が開発に協力。セラミック製フィルターを使用したろ過装置を内蔵することで、手洗いや食器洗いに使用した水をろ過し、浄水として繰り返し使うことができるようになっています。水を逆流させることでフィルターを自動洗浄する「逆洗浄機能」も搭載しており、災害時など「もしも」の時にも長期間、機能を落とさずに使用できるよう想定しているとのこと。
モビリティキッチンのデザインを担当したクリナップ開発戦略部の近岡 咲さんは、給排水などの家とのつながりをなくしたモビリティキッチンで、新たなライフスタイルを提案します。
「例えばダイニングで餃子を作りながら、こまめに手を洗い、テーブルの上で焼くことができます。ダイニングで全ての工程が完結するので、これからはキッチンに立つという概念すらなくなるかもしれません。」
武蔵野美術大学では「芸術やデザインをベースにしながら、社会にイノベーションを起こしていく人材を育成する」という信念のもとに、2019年にソーシャルクリエイティブ研究所を設立。社会を良くするためのデザインビジョンと、プロトタイプによる実践研究に取り組んできました。
ソーシャルクリエイティブ研究所所長の若杉 浩一教授は「人はともに子どもを育て、ごはんを食べることで、豊かな社会を支えていくつながりを築いてきました。」と話し、キッチンはこれからの社会を良くする重要なテーマになるだろうと、期待を示します。
次世代のデザイナーとして産学共同研究に携わったクリエイティブイノベーション学科の田村さんと横田さんは、食の未来予測とキッチンの可能性をリサーチ。インタビューを通して家庭ごとに異なる食事のパターンをリストアップし、「キャンプをするときに、みんなで分担して小さなキッチンを持ちより、大きなキッチンを作る」「地域のお祭りに家庭のキッチンを持ち込み、屋台のように料理をふるまうことで、社会の中で食事を楽しむ」など120パターンの未来の暮らしの在り方を、“ライフスタイルシナリオ”として発表しました。
また、子どもたちの身近にあるキッチンを通じて、未来やSDGsについて考えるきっかけを持ってほしいと開催された「未来キッチンイラストコンテスト」の結果発表も行われました。約3,000件の応募から最優秀賞に選ばれたのは、千葉市立土気南小学校3年 西岡 連さんの作品です。戦争をしている地域の人々に、ごはんを届ける恐竜型のロボット。プラスチックごみをエネルギーに変えて動きます。「未来キッチンプロジェクト」にも大きなヒントが得られたとして、記念品として西岡さんの絵を元にした立体的なモデルが贈られました。
「キッチンにはまだまだ、生活・社会・地球を良くする可能性がある」という信念のもとに開発されたモビリティキッチンは、今回発表されたプロトタイプにさらなる開発と検証を重ねて、2030年の事業化を目指しているとのことです。
新しいライフスタイルを創造する次世代キッチンの実用化が、待ち遠しいですね。
(ライター/山見美穂子)