株式会社ポプラ社と、東京大学大学院教育研究科付属発達保育実践政策学センター(以下、東京大学Cedep)は、デジタルメディアの急速な普及が進み“本離れ”が叫ばれる中、子どもを取り巻く読書環境の改善を目的とし、“本”の価値を科学的なアプローチで明らかにする「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクトを2019年8月より共同で開始しています。
▲左より東京大学教育学研究科Cedep:野澤祥子さん、東京大学教育学研究科Cedepセンター長:遠藤利彦さん東京大学教育学研究科長:秋田喜代美さん、株式会社ポプラ社代表取締役社長:千葉均さん、発達保育実践絵施策学センター・特任助教:高橋翠さん
本研究では、子どもの発育発達プロセスにおける絵本・本の固有性や、認知能力・非認知能力の発達への寄与の可能性、保育園・幼稚園での絵本をとりまく環境などを、科学的アプローチによって明らかにしていくことで、
デジタルメディア時代の絵本・本の新たな価値を発見し、その研究成果を広く社会に向けて発信することで、未来の子どもたちにより豊かな読書環境を提供することを目指しているとのこと。
▲共同研究における概念図
2020年2月に、全国初となる全国保育・幼稚教育施設の絵本・本環境の実際調査結果の発表と、共同研究の主旨及び、今後の研究予定に関する第1回目となる記者会見が開かれました。
●調査の背景
昨今、子どもの「育ちの場、発達の場」として役割が増大している保育・幼児教育施設。
その施設の質の観点の一つとしての絵本・本環境を調査したというのが、今回の発表とのこと。
●保育・幼稚教育施設では「絵本」にかける予算・蔵書数共に小学校・中学校に比べて少ない
Q 現在園で所有している絵本のおおよその冊数
冊数に関する調査結果は、園で所有している絵本は500~1,000冊未満が20.5%ともっとも多いが、
施設形態別に見ると、0~300冊未満と答えた認可保育所が30.8%以上ある一方、幼稚園は9.8%、認定こども園は7.7%と施設による差も明らかになりました。生徒数や、認可保育所は、設立年数が若かったり、1園あたりの子どもの数が少ないなど、一概には比較ができませんが、施設形態による蔵書数に関しては差がみられた。
Q 1年間の「絵本」の平均購入予算
▲年間平均購入予算。1~5万円がボリュームゾーン。
参考値:小学校では平均49.8万円、中学校では58.7万円 2019年度学校図書館調査報告(全国SLA研究調査部)
▲子ども1名あたりの年間予算の平均(一番右側)を見ると、どの施設も絵本1冊購入も難しい程度の予算となる。
●市町村・都道府県からの補助金等はないものの、園における絵本の蔵書数・購入予算は十分だと感じている施設
絵本を購入するために市町村・都道府県からの補助金等があるか、という質問に関しては、幼稚園が若干補助金があるという割合が高いものの、大部分の施設でそういった補助はないと回答。
一方、園における絵本の蔵書数・購入予算は十分だと感じている施設からの回答も多く、研究者と現場とのギャップも感じる回答となりました。
その他、蔵書数が少ない施設ほど、図書館の絵本を活用する頻度が高いことも分かりました。その結果、地域の図書館は就学前の子どもたちの絵本・本環境として重要であることが分かりました。
●今後の研究について
今回の研究結果も踏まえ、今後の研究として
・視線計測装置を用いた絵本の読み聞かせと、動画視聴時の情報収集方略や相互作業の違いを研究
・日本国内・海外における優れた絵本・本環境構築に向けた事例収集・調査
を行っていくとのこと。
引き続きココフル編集部でも研究結果をご紹介していきたいと思います。
【全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査】
・実施時期:2019年10月上旬から10月31日
・実施方法:ポプラ社DMにアンケートを同封>保育・幼児施設33,566園(施設)
・回答方法:Faxで東京大学Cedepに返送、または、Cedepのウェブサイト上で入力・回答を行った
・回収率:3.1%(計1,042園)
東京大学Cedep(正式名称は東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センター)とは
「すべての学問は保育につながる」を理念とし、保育施設の質向上に関わる学術研究を行い、そこで生み出される知見に基づき公益に貢献することを目的に生まれた、国立大学で初めての保育の学術研究センター