“セタブン”の愛称で親しまれる「世田谷文学館」は、文学作品や絵本、漫画など多様なジャンルをとりあげたユニークな展示が話題の、まさに時代をリードする文化発信地です。
かつて私も「岡崎京子展-戦場のガールズ・ライフ」や「ヒグチユウコ展 CIRCUS」を観にひとりで訪れたことがありましたが、近年の館内リニューアルによって、実はかなり子連れフレンドリーな施設になっているとの噂が…!
そこで今年のまだ寒い時期、息子を連れて遊びに行ってみました。
(※館内の展示情報は2023年1月時点のものになります)
目次
京王線「芦花公園」駅から徒歩5分。南口を出て千歳通り沿いに進むと、地域の小中学校にも隣接した緑豊かな住宅地に姿を表すのが「世田谷文学館」です。
1995年、東京23区初の総合文学館として開館した当施設。その収蔵品は10万点以上にのぼり、地域に縁のある資料や地元作家の資料、また近くに撮影所がある関係で映画や舞台美術の資料も豊富なのだとか。
ガラス張りの近代的な意匠の博物館ですが、建物からは見事な日本庭園や錦鯉の泳ぐお堀を眺めることができます。
さっそく今回一番の目的地、1Fにあるライブラリー(図書室)「ほんとわ」に向かいました。
行ってみてビックリ。大人向け施設の印象が強かった「世田谷文学館」内に、こんなにおしゃれで居心地のよい子ども向けスペースができていたなんて…!
ここでは子連れにおすすめのポイントを紹介します。
2017年にリニューアルし、「ほんとわ」と名付けられた新ライブラリー。「本と話」「本永久」「本とは?」「本と輪」など様々な意味を重ね合わせることができる名称には、幅広い世代の人に本の多様な楽しみ方を提供したいという思いが込められているそうです。
たしかに、かつては調査・研究用に開架される“ザ・資料室”といった雰囲気のライブラリーだったのに、驚くほど様変わりしていました。
手前の青絨毯のエリアは大人向け、その奥が子ども向けにゾーニングされており、息子は奥のプレイマットへと一目散にかけ出しました。
「ほんとわ」奥の子ども向けエリアは、とにかく明るい!見上げると天井には可愛らしいオーナメントが揺れ、一面の窓からは気持ちの良い日差しが降り注ぎます。
この場所に、親子でこんなにゆったりと過ごせる無料の居場所があったなんて…。小さな子どもサイズのテーブルセットに腰掛けて、のんびりと憩える幸せをかみしめました。
本や紙芝居の貸出や購入はできないものの、「ほんとわ」内であれば自由に手に取り好きなだけ読むことができます。
おこもり感を味わえる読書ブースが設置されるなど、本を読みたくなるような仕掛けもいっぱい。久しぶりに読み聞かせをしてあげると、最近文字が読めるようになった息子は「僕も読むよ」と半分読み聞かせてくれました。
子ども向けエリアには小さな木馬や椅子と机のセットもあり、まだ絵本が読めない年頃の子でも遊びながらゆったりと過ごせるようになっています。
またその横には授乳室とベビーカー置き場も!設置されているだけでありがたいと感じる授乳室ですが、ここはとりわけ綺麗でおしゃれな印象。「授乳しながら心地よく過ごしてね」とやさしく言われたような気持ちになりました。
ライブラリーをリニューアルした背景には、2017年当時、区内の9歳以下の児童数が5年連続で増加していたという地域の状況があったのだとか。
赤ちゃん連れでふらっと入れる居場所が身近に増えるだけで、なんだかとっても安心できるなあと改めて感じられました。
「ほんとわ」手前の大人向けエリアには、その時々の展示に合わせた本や資料が充実。さらに『本と輪 この3冊』と題して各界の識者がテーマ別にセレクトしたオススメ本3冊が紹介されていたり、『POPEYE』など雑誌のバックナンバーが閲覧できたりします。
久々に「あれもこれも読みたい!」と読書欲が刺激され、ここに所蔵される「知」の分厚さに目が開かれる思いがしました。
しかも驚いたのは、そんな「知」の刺激を家でも享受できること。
「世田谷文学館」はHPやSNS、ラジオやポッドキャストを使った情報発信がとっても上手。HPでは『本と輪 この3冊』のバックナンバーを閲覧できるし、Spotifyなどのサービスを利用すれば毎週木曜11時からエフエム世田谷で放送中の『ほんとわラジオ』や『SETABUN PODCAST』のバックナンバーにアクセスでき、企画展、コレクション展、イベントにまつわる作家さんの貴重なおしゃべりが聴けるのです。
なかなか自分の趣味に向き合えない育児中でも、これなら隙間時間でインプットを続けられそうです。
ちょうど企画展「月に吠えよ、萩原朔太郎展」(現在は終了)をやっていたこの日。子どもには少し難しい内容かもしれないと思いましたが、せっかくなので展示室にも立ち寄ることにしました。
その結果「展示も一緒にみるのが正解!」となった理由を紹介します。
“文学”の展示といっても、ガラスケースに入った作家の生原稿と顔を突き合わせるだけで終わらないのが世田谷文学館のユニークなところ。
館の方にお話を伺ったところ、「毎回どの展示にも展覧会担当者は工夫を凝らしています」とのことで、子どもから大人まで自分の感性のまま作品世界に浸れる仕掛けがたくさん用意されていました。
さらにこの日は展示室の外にも展示内容と連動した「猫町ラビリンス」なる巨大迷路が!萩原朔太郎作『猫町』の猫になりきったつもりで追いかけっこを楽しみました。
企画展・コレクション展を通じてもっとも息子を魅了したのが、世田谷文学館名物のからくり劇場「ムットーニ コレクション」です。
自動からくり人形作家「ムットーニ」こと武藤政彦さんによる、古今東西の文学作品をモチーフにした箱型の自動人形からくり(ボックスシアター)のことで、世田谷文学館には現在10台が所蔵されています。
小さな箱の中で展開する異世界は、まさに体感する文学!
私は宮沢和史さんの切ない歌声にのせた《スピリット・オブ・ソング》にとりわけ胸が締め付けられるようでしたし、集中して見入っていた息子は《猫町》でビクッと驚いたあと「もう一回!」とひき込まれていました。
上演作品やスケジュールは時期により変更・入替があるとのこと。予めHPで確認しておくとよさそうです。
ピラフやスパゲッティなど、昔ながらの喫茶メニューを開放感あふれる座席で堪能できるのが、1F「喫茶どんぐり」。
息子はチキンライスにサラダとジュースのセット(800円)、私はミートソーススパゲッティにサラダとコーヒーのセット(800円)を注文しました。
店内にはキッズチェアも1脚用意があるそうで、今度は下の子も一緒に連れて来ようと思いました。
館内には1Fホールにもベビーカー置き場があるほか、だれでもトイレ、オムツ替え台、ロッカーや水飲み機も完備。自転車で来た人向けに無料の自転車置き場もあります。
建物の周辺には緑道や公園も多く、この日は出てすぐの「泉橋公園」で少し遊んでから帰りました。
日頃テレビやYouTubeを通じて多くのコンテンツと次々に接している息子。この日「世田谷文学館」で一つひとつの作品にじっくりと向き合う時間を持てたことは、本人にとってかなり印象深い経験になったようです。
2023年4月29日からは、化け猫や妖怪、想像上の生き物をユーモラスに描きだす絵描き・石黒亜矢子さん初の大規模個展「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」がスタート。ぜひまた遊びに来たいと思います。
(取材・文/古賀ゆに)
名称 | 世田谷文学館 |
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WEB | https://www.setabun.or.jp/ |
住所 | 東京都世田谷区南烏山1-10-10 地図を見る |
アクセス | 京王線「芦花公園」駅南口から徒歩5分 小田急線「千歳船橋」駅から京王バス(千歳烏山駅行)利用、「芦花恒春園」下車徒歩5分 |
お問合せ | 電話:03-5374-9111 |
関連情報 | 休館日:毎週月曜日(祝日の時はその翌日) 開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで) |
駐車場情報・駐車料金 | 専用駐車場(利用台数が限られており、公共交通機関の利用を推奨) |