緑豊かな世田谷の地に130年以上もの歴史を誇る東京農業大学。その膨大な研究業績や教育実績を集めた展示・学習施設として2004年に開館した東京農業大学「食と農」の博物館は、地域の人たちの散歩コースとしても愛される、知る人ぞ知る無料開放施設です。
建物の隣には、なんと熱帯地方の動植物と親しめるエリアも!今日はその魅力をご紹介します。
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経堂・用賀駅より徒歩約20分。せたがや百景にも選ばれた「けやき広場」に隣接し、付近には「JRA馬事公苑※」「上用賀公園」など子どもの遊び場も充実。そんなのんびりとした住宅地の中に佇むのが東京農業大学「食と農」の博物館です。
博物館のルーツは、東京農業大学の前身・東京高等農学校の初代校長で「日本の博物館の父」と称される田中芳男氏が創設した「標本室」にあるとされ、館内には研究のために集められた膨大なコレクションの一端が展示されています。
一見、子連れNGな施設に見えますが、そうではないのがこの博物館の嬉しいポイント。コロナ禍では予約制でしたが、現在は再び予約なしで自由に入れるようになりました。
一般開放された1・2Fと隣接の展示温室「バイオリウム」は、散歩や外遊びの合間に立ち寄るのにちょうど良く、近隣の保育園児たちのお散歩コースとしても親しまれているのです。
わが家では、外遊びでヘトヘトだけれどまだ帰りたくなかったり、とにかく親が暖まりたい・涼みたい時などにもよく利用しています。
※「JRA馬事公苑」は施設整備工事のため休苑中。2023年11月からの再開苑を予定
一歩足を踏み入れると、吹き抜けを活かしたガラス張りの開放的な空間が広がる館内。受付の警備員さんがいつもにこやかに声をかけてくれます。
受付ではベビーカーを借りることもでき、「上の子は元気だけれど下の子は今にも寝落ちしそう」といった時などに助かります。
つい見落としがちなのですが、実は建物に入ってすぐのところに子ども向けの「ワークシート」が複数用意されています。息子が歩き始めのころから何度となく訪れている場所でしたが、これまで利用したことはありませんでした。
そこで、この日は初めて「ぼくたちに会いにきて!みんな見つけたら動物マスター!?」というワークシートを見ながら館内を歩いてみることにしました。
自由に歩き回っても楽しい館内ですが、テーマや目的を持って歩いてみると、いつもとは違った景色が見えてきます。
「スナネズミはカボチャが好きって書いてあるよ、あれ、これがカボチャかな? カボチャはどこだろうって探しているのかも」と、いつもなら「かわいい!」と眺めるだけだったスナネズミのこともこの日はより注意深く観察し、理解を深めていました。
2Fの常設展も盛り沢山。ワンフロアの中に多様な展示物が展開し、好奇心のままに楽しむことができます。
中でも東京農業大学の卒業生の蔵元を紹介する「銘酒紹介コーナー」のスケールは圧巻!色とりどりの酒瓶がバックライトに照らされて、ちょっとした“フォトスポット”になっていました。
HPに「どなたにも楽しんでいただける博物館をめざします」とあるように、建物には子連れはもちろん車椅子の方でも安心して過ごせるような配慮がなされています。
貸出ベビーカー2台、車椅子3台、車椅子対応エレベーターも完備。盲導犬、介助犬、聴導犬を伴っての入館もOK。
多目的トイレが1Fにあり、オムツ替え専用ベッドも用意されていますが、授乳室の用意はありません。また使用済みオムツは各自持ち帰るルールになっているので、その点だけご注意ください。
博物館1F脇の連絡口の向こうには、何やらうっそうと緑の茂る温室が…!
そう、ここがウワサの“住宅地の中のジャングル”こと「バイオリウム」の入口です。
この「バイオリウム」とは「バイオ(BIO)=生き物」と「リウム(RIUM)=空間」を掛け合わせた造語で、動物園、植物園、水族館といったくくりを取り去った「生きもの空間」を表しているとのこと。
一歩足を踏み入れると、そこには都会の住宅地では到底味わえないほどの濃い緑や土の匂い、生き物の息づく匂いが満ちていて、夏ともなると窓を開け放し、まるでジャングルの中にやってきたような熱帯の風を肌身で味わうことができます。
中には動物たちがいるので、そのニオイに「くっせー!」と大騒ぎする子もいるそうですが、「ここは人間には不快かもしれなくても、ジャングルの動物や植物にとっては心地よい環境なんだよ」と伝えると、みんな興味深く耳を傾けてくれるそうです。
都会に暮らす私たちにとって、これはかなり貴重な体験になりますね。
「バイオリウム」内にある巨大ケージの中で動き回るのは、マダガスカル固有の原猿類「レムール」。
尻尾の白と黒の縞模様が特徴的な「ワオレムール」、耳まわりにふさふさと伸びる毛がかわいらしい「クロレムール」、褐色や灰褐色の毛が密生した「ブラウンレムール」の3種類、計23頭がここで飼育されています。
そのサル舎手前の通路に陣取るのは、長年バイオリウムに暮らす「ケヅメリクガメ」。地域の子どもたちが書いた観察記録には「じめんをほって、ばじこうえんににげたことがあります」とありました。
温室内は「マダガスカル乾燥地の植物」を中心に「熱帯果樹」や「水辺の植物」、「熱帯雨林の植物」などテーマに沿った植物が育てられ、珍しいものもたくさん。息子はメキシコのたる型サボテン「キンシャチ」のトゲトゲぶりにひたすら圧倒されていました。
これらバイオリウムの動植物を管理するのは、博物館と同所的に活動する一般財団法人進化生物学研究所の研究員たち。
なんとこの研究所は、元は同大学の育種学研究所として1950年にこの地で活動を始めたそうで、研究員のほとんどは農大の卒業生。研究だけでなく、学生の指導や動植物の魅力を伝える活動も活発に行っています。
最近では、全国の修学旅行生などを中心に、研究員による「ガイドツアー」が大人気。
団体はもちろん個人での申し込みも可能で、料金は大人(高校生以上)500円、子ども(小中学生)250円とリーズナブル。事前の予約が必要になりますが、所用時間や内容については参加人数や年齢にあわせてアレンジしてくれるので、未就学児でも参加できるそうです。
動物や植物が好きな子にとっては、夏休みの自由研究にも良さそうですね。
1時間ちょっとですべての展示物を堪能した私たち。表に出て、最後にチャボのケージを覗き込んでから帰ることにしました。
都会の住宅地の中で、長きにわたりいくつもの命を育み続ける東京農業大学「食と農」の博物館。
現在、世田谷通りを渡った先の東京農業大学では一般の人も利用できる「国際センター」をはじめ、新校舎や新店舗がぞくぞくとオープン。
また今秋には長らく工事のために閉苑していた「JRA馬事公苑」もリニューアルオープン予定となっており、今後は当博物館も含めたこの一帯のさらなる賑わいが予想されます。
家族みんなでたっぷり遊んだら、ぜひ当博物館にも立ち寄ってみてはいかがでしょうか。五感に響く、ここにしかない刺激に出会えるはずです。
(取材・文/古賀ゆに)
名称 | 東京農業大学「食と農」の博物館 |
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WEB | https://www.nodai.ac.jp/campus/facilities/syokutonou/ |
住所 | 東京都世田谷区上用賀2-4-28 地図を見る |
アクセス | 小田急線「経堂」「千歳船橋」駅、田園都市線「用賀」駅より徒歩約20分 バスは 小田急線「千歳船橋」駅、田園都市線「用賀」駅「渋谷」駅より「農大前」バス停下車徒歩3分 |
料金・参加費 | ■入館料:無料 ■有料ガイドツアー:(一財)進化生物学研究所事務局に要予約 TEL:03-3420-7449 FAX:03−3425-2554 大人(高校生以上)500円、子ども(小中学生)250円 |
お問合せ | 電話:03-5477-4033 |
関連情報 | ■開館時間:9:30~16:30 |
駐車場情報・駐車料金 | 障害者手帳をお持ちの方のみ駐車スペースの手配が可能。来館2日前までに事務室に要連絡。 |