重たい雲の垂れ込めた冬のある日、6歳の息子と一緒に江東区有明にある防災体験学習施設「そなエリア東京」に行ってきました。
「そなエリア」は「そなえる+エリア」からなる造語で、「ここでの体験と学習を通じて“災害をイメージする力”と“対応力”を身につけることで、災害への備えにつながる場所」を意味しているそう。
地震発生後の町を再現したかなり本格的なジオラマの中、タブレット端末を使った「防災クイズ」や「AR体験」で危険をシミュレーション学習できる施設なのです。
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りんかい線「国際展示場駅」より徒歩4分、ゆりかもめ「有明駅」より徒歩2分。日本初の国営防災公園「東京臨海広域防災公園」と、公園内の学習施設「そなエリア東京」は、2010年7月にオープンしました。
1995年1月に発生した阪神淡路大震災を受け「首都で大きな地震災害があった際に、すぐに支援活動に取り掛かれるようにする」ことを目的としており、公園内にはヘリポート完備、液状化対策・免震対策も万全。災害時にかまどとして使えるベンチも設置されています。もし首都圏で大規模な地震災害等が発生した際には、ここに国や地方公共団体等の緊急災害現地対策本部が置かれるそうです。
「そなエリア東京」の目玉は、地震災害後の支援が少ない時間を生き抜く知恵を学ぶ防災体験学習ツアー『東京直下72hTOUR』。被災地や避難所の様子を再現したジオラマ展示の中を実際に歩きながら、地震発生後の72時間(3日間)に想定できる危険や取るべき行動、日頃からの備えについて学ぶことができます。
料金は無料で、事前予約も不要(団体利用の場合は要予約)。入口横のインフォメーションに掲示されるツアー開始時間を確認して、その場で申し込みをします。ツアーは日にもよりますが1時間に1回は実施されているそうです。
ツアーの所要時間は約30分。かなり本格的なジオラマが展開されるそうで、息子は怖がってしまうかなと少し心配。すると、入口にも丁寧な注意書きがありました。
<注意書き>
※小学3年生以下の参加者は、18歳以上の保護者の同伴が必要です
※小さなお子様や災害を経験された方などには、刺激が強い場合があります。保護者の方、あるいはご自身の判断にてご参加ください
※ツアー途中で、ご気分が悪くなられた場合は、スタッフにお申し出ください
なおツアー中の写真や動画の撮影は、同行者の体験する様子であればOK。ただしフラッシュ撮影はNGで、他の方のプライバシーへの配慮は必須です。もし撮影素材をSNSやYoutubeで公開したい場合は、別途管理センターに相談が必要です。
また中に入ってからは、飲食、携帯電話の通話は禁止。傘は入り口の傘立てに、荷物はコイン返却式のロッカーに入れることができます。
時間になり、入口にはツアーの参加者が集合しました。係の方の案内に従い、貸し出しカウンターでタブレットを受け取って、奥のエレベーターホールに進みます。
地震対策をしたいのは「外出先」か「自分の住むまち」か、学びたいコースは「小学生コース」か「一般コース」かなどを、係の方の説明を受けながら選びます。
さあ、いよいよエレベーターの中へ。設定は「20XX年12月X日。夕方6時。あなたは今、駅ビルの10Fシネマフロアにいます」というものですが、これは実際に地震が起きた場合、経済的影響がもっとも大きいとされる日時なのだとか。
すると、突如エレベーター内が暗くなり、非常灯が点灯。どうやら震度7のかなり大きな地震が発生したようです。
私たちはかろうじて1Fに到着していたエレベーターを降り、従業員通路の「非常口マーク」を目印にビルの外へと脱出しました。
外に通じる扉を開けた先には、被災した町が広がっていました。参加者はいったん集まって、タブレットを使った「防災クイズ」と「AR体験」の進め方を確認したのち、タブレットに表示されるマップをみながら各々に探索を始めます。
傾いたビル、乗り捨てられた事故車、倒れかけた電信柱、液状化で盛り上がるマンホール、火の手の上がる飲食店、封鎖された地下鉄、倒壊した家々…。街頭の大型ビジョンからはNHKの緊急地震速報のチャイム音が断続的に鳴り響き、その度に胸がギュッとなります。
一方息子は思ったよりも怖がることはなく、「災害時、こんな時どうする?」を選ぶ「防災クイズ」を解くことに夢中な様子でした。タブレットのカメラをARマークに合わせると、被災時の危険な状況が説明とともに再現される様子にも大興奮!
こうしてアトラクション感覚で得た経験や知識が、いざというとき「そういえば、これ知ってる!」につながっていければいいなと思いました。
個人的には、家具を固定しているリビングと何も対策をしていないリビングの被害の差を比較するコーナーを前に、身につまされる思いでした。買ったまま、まだ取り付けていない「突っ張り棒」を早く付けなければ…!
ジオラマが終わると、「まちの映画館」なる大きなスクリーンの前に出ました。
ここでは、冬の夕方18時頃に首都直下で最大震度7の地震が起きた場合の都内の様子をCGで再現した「首都直下地震イメージ(約3分)」と、大型震動台を使って住宅や橋、高層建築物の室内の揺れなどをシミュレーションした「震動台実験映像(約1分)」がループ上映されています。そのあまりの迫力や、想定される被害規模の大きさに、あらためて災害の恐ろしさを突きつけられました。
ここでは避難したのちの暮らしについて、備えておくと便利な防災アイテムや、かまどベンチや簡易トイレの組み立て方、身近なものを利用したシェルターの作り方など、様々な知識やアイディアが紹介されています。
また避難所事例として東日本大震災時の福島県いわき市内の避難所が再現され、当時の過酷な状況が詳細に説明されていました。個人のプライバシーや安全や体調を守りながら、より快適に過ごせる避難所の実現を願わずにはいられません。
生活再建のために欠かせない「罹災証明書」の実物も展示されており、被災を自分事として感じられる展示内容でした。
タブレットを返却し、ツアーは終了。津波の速さ・高さをわかりやすく展示した「津波避難体験コーナー」を経て2階へ行くと、さまざまな災害への備えをチェックできる「防災学習ゾーン」や、アニメの常設上映コーナーなどがありました。
「防災学習ゾーン」では、「きほんのそなえ」と「一人ひとりのそなえ」という2つのゾーンが展開されていました。
すぐにやるべき備えをパネルごとに提案する「きほんのそなえ」では、パネル内のチェック項目を見ながら自分の“そなえ度”を確認でき、足りないと感じるものはQRコードを読み込んで「そなえカード」として携帯電話内に持ち帰ることができます。
一方「一人ひとりのそなえ」は、「生理がある」「妊娠している」「和式トイレが使えない」「保育園・幼稚園児」「ゲームが好き」などなど、多様なニーズに踏み込んだ「災害時のそなえ」を提案する内容。自分のニーズの理解はもちろん、他の様々な人への想像力や思いやりにもつながる、とてもよい展示内容でした。
これらの「そなえ」については、こちらのページでもチェックすることができます。今後防災グッズを強化する際に役立てられそうです。
「防災学習ゾーン」を出て2Fのフロアを進むと、2009年にフジテレビで放映され、平成21年度の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞したアニメ『東京マグニチュード8.0 〜東京直下72hTOUR〜』の常設上映がありました。
“そなエリア特別バージョン”として18分にまとめられた再構成版ですが、重要なシーンをギュッと凝縮させた胸に迫りくる内容でした。
館内には他にも非常食等を販売する「そなえカフェ」や、見晴らし抜群な「屋上庭園」もあり、天気が良ければお散歩にも最適です。また授乳室やおむつ替え台、だれでもトイレもあるほか、車椅子や子供用便座の貸出もあるので、足の不自由な方や小さな子ども連れでも安心です。
さらに本部棟裏手の多目的広場には、なんと道具や食材を予約するだけで手ぶらでバーベキューを楽しめる「そなエリアBBQガーデン」が営業中とのこと!
今回は公園散策はせずに帰ることにしましたが、暖かくなったころ、ぜひまた再訪したいと思います。
(取材・文/古賀ゆに)
名称 | 東京臨海広域防災公園 そなエリア東京 |
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WEB | https://www.tokyorinkai-koen.jp/ |
定休日 | 月曜、年末年始、臨時休館日 ※月曜祝日の場合は開館し翌日休館。火曜祝日の場合は月曜開館、休日明けの日が休館 ※臨時休館日はホームページ「お知らせ」にて案内 |
住所 | 東京都江東区有明3-8-35 地図を見る |
アクセス | りんかい線「国際展示場駅」より徒歩4分、ゆりかもめ「有明駅」より徒歩2分 |
料金・参加費 | 無料 |
お問合せ | 電話:03-3529-2180 |
駐車場情報・駐車料金 | 一般来園・来館者向け駐車場はなし ※バス等の大型車両(11人乗り以上)のみ事前申込みで駐車可能(無料) ※そなエリア東京正面に2台分の障がい者用駐車場あり |
開館時間 | 9:30~17:00(最終入場16:30まで) |