新宿STORYSTORYで行われた「小さなおばけシリーズ」40周年&「おばけのアッチCafé」お披露目会にてブックトークが行われました。
イベントの様子はこちら→
https://www.cocoful.jp/wp/event/entry_13511.html
ブックトークに登壇したのは、角野栄子さんとブックディレクターの幅允孝さん。
幅さんは、子どものころからの角野さんの本のファン。お二人による熱のこもったトークが繰り広げられました。
ココフル読者の方にもとても参考になると思うので、内容をまとめてみました。
◆大切にしたい初めてのひとり読み
幅 読み聞かせなどで、今の子どもたちも本に触れる機会は多いと思いますが、一方そこから自分で読むというところにまで達せず、Youtubeやゲームに行ってしまう、そういう子どもが多いと言われています。そのあたり、角野さんどういうふうに考えていらっしゃいますか?
角野 お母さん方や学校の先生は、本を読んであげているから、子どもたちは本が大好きだと思っているんですけど、それはあくまで聞き者だとして、なんです。すごく面白くなければスマホだとかYoutubeなどにすぐ移ってしまう。一番正直な読者を相手に、すごく喜んで面白いって思ってくれる作品を書きたいと思ってます。真剣勝負ですよ。
幅 絵本から児童文学の間をつなぐひとつのジャンルとして、幼年童話、僕はすごく注目すべきところではないかと思います。小さなおばけシリーズは、文字の数がかなり少ないし、ことばを覚えたての子どもたちが一番最初に自分で読める作品として最適ですよね。
角野 「ひとりで最後まで本を読めた」というのは、誰にでも必ずあるすごく素敵な記念日だと思います。そういう経験を大切にしてほしいですね。
幅 そうですね。
◆角野さんも、声を出しながら書いている!
角野 私は本を書くときに、必ず声を出して読んでいるんです。リズムとか、読んでいる方の心の弾み具合を自分で感じながら、何回も何回も声に出して読むので、私の本は声に出して読んでいただくのにはいいんじゃないかな。
幅 角野さんも声を出しているんですね!小さなおばけのシリーズでアッチは、料理をするときに必ず歌を歌うんですよね。
リズミカルな言葉を頭の中でリフレインで繰り返す。そうすると頭の中で、勝手にキャラクターが動き出すんですよね。文字を読むのって、何も動かないし動画みたいな派手な何かもない。でも、実は頭の中でわーっと物語やキャラクターが動き始める。それを小さいころに知っていると、その後、文字を読むことに対する耐性とか持久力みたいなものが変わってくるんじゃないかなあと思いますね。
◆リズミカルなアッチシリーズ
幅 2019年1月7日に上梓された小さなおばけシリーズ40冊目の「おばけのアッチ スパゲティ・ノックダウン」でもおひさまスパゲッティを作るときに
「とまとまとまと、にんにくすりすり、たまねぎねぎねぎ、おしおぱらぱら、あとはにてにてできあがりー」って、楽しいですよね。
角野 ちょっとスターになった気分で、ベランダかなんかで読んでもらったらいいなって思います。
▲おばけのアッチ スパゲティ・ノックダウン!(角野栄子作/佐々木洋子 絵)
◆食べ物の話は、みんな大好き!
幅 ところで、食べ物のことを物語に書くのって、昔はあまりポジティブじゃないと言われてたんですって?
角野 食べ物が少ない時代に生まれましたから、賛否はあったんですね。ただ、食べ物の話をしてるとみんなにこにこするんです。「食べてみたい!」ってなる。だから話が広がるし、超おかしい食べ物も食べさせてみたいなって思って、そんな気持ちですね。
幅 そうですね。いもむしグラタンとか、ふしぎな爆弾カレーとかね。おばけとその仲間だから、ふしぎな料理が登場するんですけど、ちゃんとレシピまでついているから、ちゃんと家でもできそうな感じがする。ひょっとしたらこれおいしいんじゃないかという気すらする。食べ物というものとファンタジーというものの繋げ方というのもまたすばらしい作品だと思います。
▲おばけのアッチCaféで出されるアッチのいもむしグラタンを試食する角野さん「おいしい!」
角野 ファンタジーにも生活の中に入ってくるようなリアリティって絶対必要だと思うんです。私の書いた歌を歌いながら、一人で作ってみたりお母さんと作ってみたりしたら楽しいんじゃないかな。ですから食べられない材料は一つも入れてません。現実にある材料ばかりですし、料理の本みたいに何gとか、そういうことは書いていないですけどね。今回40冊目ということで、第1作と同じように、スパゲティを選びました。えっちゃんにも登場してもらいましたよ。
幅 途中でアメリカに留学していなくなったえっちゃんが、ちょっとインターナショナルになって帰ってきましたね(笑)。
◆幻のデビュー作に、角野文学の原点を見る
さて、この本と一緒に復刊された幻のデビュー作「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」についてもお話を聞きたいと思います。この本は60年前にブラジルに渡航されたときの経験をもとに、1970年に出版されましたね。
▲ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて(かどのえいこ作/福原幸男絵)
角野 そうです。ブラジルに行っていたのでそこで知り合った子どものことを書いてごらんなさいって大学の先生から言われたんですね。本当に自信なく、おろおろと書き始めたのがこれなんです。私、本を読むのは大好きだったんですけど、小さいときから作家になりたいと思っていたわけではないんですよ。
この本が出たのは35歳のとき。これをきっかけに、私は書くことは面白い、書くことが好きだと発見した、記念の本なんですね。
幅 たとえば冒頭の船のシーンから、船の「ポンポン」という音とか、「ドゥ、ドゥドゥッドゥー」とか、オノマトペ、擬音語を心の中で鳴らしながら読んでいくと、文章のリズムもとても気持ちがいい。後半のカーニバルのシーンも頭の中で音楽が鳴り続けるようで、まさに角野さんの「音と物語を一緒に読者にしみこませるような手法」というのは、このころからあったんじゃないでしょうか。
角野 ブラジルで言葉がわからなくて、リズムのある言葉を未知の言葉として接したでしょう?そうすると言葉って今まで意味ばっかり追求してたけれど、まず音というものがあって、それが形や風景にもなる、わからないことばを聞きながら想像していると、そういうことが、だんだん自分の中に見えてくるんですね。行った当時は、ブラジルの人たちが言った言葉はみんなオノマトペなんです。それをどう感じて理解するかっていうのは、おもしろい経験でしたね。得難かった。赤ちゃんが初めて言葉を覚えるみたいなものですもの。
幅 なるほど。また、この本の「新しい場所で新しい自分とつながりを生み出していく」というのも、魔女の宅急便や角野さんの作品にも通じるような、原点中の原点なのかなあという気が個人的にはしております。60年前のサンパウロは、今と様子は違うものの、「何かここではないどこかに飛び出していきたい人の気持ちを描く作品」としては、本当に現在の読者にとても響くようなストーリーと思うので、ぜひたくさんの方に読んでいただきたいですね。
角野 そうですね。ぜひ読んでください。
◆世代を超えて、読み継ぎたい角野作品
幅 最後に、角野さんの本を読み継いできた読者に角野さんからひとことありますか。
角野 ぜひ、もう一度読んでいただきたいなと思いますね。声を出して。講演会では、よくお母さんが「小さいころに読んでいたのよ」と言って子どもに本を買っていかれたりしています。三代で読み継がれているなんて、すごくうれしく、ありがたいことだなあと思います。
幅 ありがとうございました。
角野栄子
1935年東京生まれ。1970年「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」でデビュー。「魔女の宅急便」(福音館書店)で野間児童文芸賞と小学館文学賞を受賞「スパゲッティがたべたいよう」(1979年刊)に始まる「アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけシリーズはじめロングセラー作品多数。2018年国債アンデルセン賞・作家賞を受賞。
幅允孝
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーの制作をしている。2018年8月ジェイアール名古屋タカシマヤの「2018なつやすみファミリーフェスティバル」内で「絵本を感じる~ちいさなおばけパティオ」をプロデュース。