2013年に監督を務めた『すべてを失う前に』でアカデミー賞短編部門にノミネートされるなど、輝かしい実績を誇るグザヴィエ・ルグラン氏が監督・脚本を務めた最新作『ジュリアン』。
第74回ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞するなど、海外でとても高い評価を受けた話題作が、1月25日から全国公開されています。
1月23日(水)、渋谷・ユーロライブで『ジュリアン』のヒット祈願トークショー付き試写会が行われました。
寺田心君が書初めを披露。
◆寺田心くん登場
トークショー付き試写会では、人気子役の寺田心さんが登場しました。
本作の感想について寺田さんは「目のお芝居がすごく印象的で、お芝居がすごく勉強になりました。複雑な心情のお芝居により引き込まれました」とジュリアン役を務めたトーマス・ジオリアさんの演技の繊細さを口にし、「終わりの方ではジュリアンくんの気持ちになって、とても息苦しくなりました」と共感させられたようです。
また、離婚がテーマに据えられた本作ですが、寺田さんは離婚について「きっと初めは、大好きなお父さんとお母さんのどちらかがおかしくなるのは辛いなと思う」とかつては愛し合っていたはずの夫婦が仲違いしてしまうことへの悲しさを語り、「好きという感情の方向を間違えると、こんなに怖いことになっちゃうのだと思いました」と渋いコメントをしてくれました。
それではさっそく本編をご紹介しましょう。
<あらすじ>
母・ミリアムは父・アントワーヌからのDV(ドメスティック・バイオレンス)などを理由に離婚を申請しました。ミリアンの申立てに不服そうな様子を見せるアントワーヌでしたが、裁判所は2人の離婚を認め、ミリアムは18歳の娘・ジョゼフィーヌ・と11歳の息子・ジュリアンと3人暮らしを始めました。
平穏な生活を獲得した3人でしたが、1つだけ気がかりな点が…。それはジュリアンの親権が“共同親権”となり、隔週の週末にアントワーヌと過ごさなければならなくなったのです。
アントワーヌは離婚に全く納得しておらず、なんとかミリアムと接触しようとします。しかし、アントワーヌに電話番号さえ教えず、一切の関わりを避けようとするミリアン。
アントワーヌはジュリアンからミリアンの電話番号や現在の住所を聞き出そうとしますが、ジュリアンはアントワーヌに嘘をつき続け、家族を守ろうとします。ただ、そんなジュリアンの態度に苛立ちを募らせるアントワーヌは、激しく怒鳴りつけるなど凶暴な“本性”を見せ始めるのです。
<みどころ>
◆ただのサスペンス映画ではない
本品は、「DV男の魔の手から家族はどのように逃げるのか?」という単純なものではありません。アントワーヌはジュリアンを待ち伏せするような強引な手段で会おうとするわけではなく、裁判所が定めたルールに則って接触しています。“憲法が狂気を持った男に息子との接触を許可した”ここが他のサスペンス映画と一線を画すポイントと言えるでしょう。
「裁判所が共同親権を認めなければ」という“たられば”が常に頭の中を駆け巡りますが、アントワーヌにも人権はあり、社会制度の難しさを考えさせられます。スリリングなだけでなく、「誰のための法律なのか」「日本の社会制度はどうなっているのか」といった社会的な視点を持たせてくれるのがとても秀逸です。
◆子どもは私たちが思っている以上に強い
私たちは子どもを“未熟な存在”と捉えがちです。ですが、子どもは大切な人のためなら、どれだけ怖い相手でも1人で立ち向かおうとする強い意志を持っています。ジュリアンはミリアンが心からアントワーヌを嫌っていることを知っていて、なんとか2人を接触させまいと矢面に立ち、懸命に嘘を付き続けようとします。ジュリアンの勇気に涙が出そうになりますが、これはジュリアンに限ったものではなく誰もが持っている感情なのかもと思わせてくれます。
◆BGMが無いからこそ生まれる臨場感
この作品にはBGMが一切使われておらず、スピーカーからは声と効果音のみが発せられます。ただ、BGMが無いおかげで、ジュリアンがアントワーヌと接している時の緊張感がより伝わってきて、息をするのさえ忘れてしまうほど5感すべてが作品に釘付けになってしまいます。
そして、音の演出が最も効果的なのが、“登場人物の息遣い”がよく聞こえるところです。怒りを露わにしている時のアントワーヌの荒々しい息遣いは、息苦しいピリピリとした緊迫感を与えてくれます。怯えている時のジュリアンのとても浅く息遣いは、恐怖心を必死に抑えつけようとしている心情が伝わってきて、ジュリアンの苦しい気持ちにシンクロさせてくれます。
この音の演技が、表情やジェスチャーなどの演技と相まって、登場人物の心の機微にますます奥行きをもたらしてくれます。
◆最後に
日本は単独親権制度なので、離婚しても共同親権になることはありません。ですが、国は現在、単独親権制度を見直す動きを見せています。当然、共同親権のメリットは多くあります。しかし、メリットとデメリットは表裏一体。そのデメリットの部分が、『ジュリアン』では巧みに表現されています。
「家族のあり方」「親子のあり方」、これらは決して答えのある問いではありませんが、多様化が進む現代社会において、避けては通れない重要な課題と言えます。その答えを導くヒントが、『ジュリアン』の中に隠されているかもしれません。
(文:宮西瀬名)
<作品タイトル:ジュリアン>
2019年1月25日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
© 2016 – KG Productions – France 3 Cinéma
配給:アンプラグド
監督・脚本:グザヴィエ・ルグラン 製作:アレクサンドル・ガヴラス 撮影:ナタリー・デュラン
出演:レア・ドリュッケール ドゥニ・メノーシェ トーマス・ジオリア マティルド・オネヴ2017年/フランス/93分/原題:Jusqu’a la garde/カラー/5.1ch/2.39:1ビスタ
日本語字幕:小路真由子 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本