▲チューくんといっしょせいかつのおはなし(ポプラ社/作 ひらのゆきこ/監修 内田伸子)
子どもに生活習慣を身につけさせるって、むずかしいですよね。大人にとって何でもないことがどうしてこんなに大変なんだろう。全部教えていかなければいけないなんて途方に暮れる、イヤイヤ期の子どもにどうすればいいのだろう。
そんな人におすすめの本をご紹介します。
2022年3月9日(水)発売になる「チューくんといっしょ せいかつのおはなし」 です。
監修の内田伸子先生に取材し、お話を伺いました。
目次
編集部(以下編) ページをめくれば、色彩がとても豊かですね。赤、青、緑、黄色と原色のわかりやすい色がいっぱいなので、子どももとても喜びそうです。
内田 まずは絵を楽しみましょう。「チューくんおふろに入っているね」「ニコニコしているね」と遊ぶ感覚でいいんですよ。
これは2~3歳の、絵本に親しむスタートの時期に与えてほしい絵本です。絵本から得るおくりものはとても豊かなもの。それは文字を教えるためのものでもなく、言葉を教えるためのものでもありません。生活習慣を教えるためのものでもありません。
お父さんやお母さんが膝の上に子どもを乗せて語り聞かせ、お子さんは安心して親の膝の中で、読み聞かせるのを聞く。絵本の世界を親子で冒険するような楽しみを味わってほしいと思っています。
編 必ずおさえておきたい生活習慣の基本を網羅している本といっても「こうしましょう」「こうしなさい」というハウツー本ではないのですね。チューくんの「おはよう」から「おやすみ」までの一日を、親子でいっしょに楽しくたどっていけそうです。
編 幼児のうちに身につけたい8つの生活習慣が、一日の中で自然に流れるように進みますね。
●おはよう●着替え●トイレ●はみがき●てあらいうがい●かたづけ●おふろ●おやすみ
この8つが、この本で取り上げられている身につけたい生活習慣です。読みながら、どんなことに気をつければよいでしょうか。
内田 チューくんは元気に楽しく毎日を過ごしていますが、「わが子はこれができていない」と比べる必要はありません。同じと考えなくていいのです。住んでいる地域や季節、環境によっても違うし、子どもの特性によっても同じようにできないことはたくさんあります。チューくんを参考程度にとどめ、わが子ならここはこうしてと応用してみましょう
ページの隅にはちょっとしたアドバイスが入っている
編 この本では、この本では、ページの隅にほんの1~2行、おうちの方へというアドバイスが入っていますね。きがえのページでは「一般に切るより脱ぐ方が簡単です。まずは「ぬぎぬぎ」「ふりふり」と脱ぐ動作をやってみることから始めてみましょう」とありました。
内田 チューくんの絵を親子で楽しみながら、目の端っこでさっと見られるように、おうちの方へのメッセージは短く、しかしポイントは外さないことを心がけて、一つひとつ吟味してメッセージを掲げました。
編 はじめての子育てのときには、親も不安でいっぱい。何が正しいのかわからずとまどうことばかりです。とはいえきちんとした専門書を読む時間も心の余裕もないので、このメッセージはわかりやすくてとてもいいと思いました。カテゴリーの最後にはもう少し長いコラムが入っていますので、余裕のあるときに読めそうです。
編 「せいかつのおはなし」は、読んでいて、なぜかとっても楽しくなります。かわいい絵は色使いもあると思いますが、ほかにも理由があるのでしょうか。
内田 ひとつにはオノマトペがあると思います。日本語はオノマトペにあふれている言語と言われています。オノマトペの効果は、発音がしやすいこと。音楽的な効果が絶大なんですよ。幼児でも感覚的に分かり、耳に入りやすく、体で表現することにもつながります。それで言葉を選ぶときにオノマトペを多くしたんですよ。
オノマトペは赤字で強調
編 なるほど。読んでいて楽しいと感じるのは「シャキーン!」「にゅーっと」「うんしょ、うんしょ、うんしょっしょ」「すっぽり ぽん」「ぴったり ぽん」そんなオノマトペがいっぱいだからなのですね。子どもと一緒に声に出したり、体を動かしたりしながら楽しみたいです。
編 各カテゴリーにはいっている「ずかん」のページには、いろいろなお友達の様子が描かれています。トイレ「ずかん」では失敗している子、おまるを使っている子、トイレで上手に用を足す子などたくさんのお友達が登場します。
子どもと大人が1対1のことが多い環境の中で、ずかんでは、いろいろなお友達がこんなふうにやっているよという想像力を広げられそうです。
内田 おっしゃる通り。でもそれだけではありません。発達のペースは、早い子もいるし遅い子もいます。2~3歳のころからいろいろな子がいることを受け入れる心を育てたい、それが伝わるといいなと思っています。
また、親は自分の子よりも発達の進んでいる子に目が行き、できない我が子を叱ってしまいがち。でもそれは逆効果です。子どもの発達はでこぼこがあります。何か夢中になっていれば、トイレに行くことを忘れて失敗することもあります。不得意なものもあれば、得意なこともあります。まだできない段階を、親にも受け入れてほしいという願いを込めて、いろいろなパターンを出しているページなのです。
編 確かに、できないことに目が行きがちです。大いに反省します!
編 ところで、どんなに楽しい絵本を読んでも、イヤイヤ期などで仕上げ磨きなど嫌がることがありそうです。そんな時にはどうしたらいいのでしょう。
内田 イヤイヤ期というのは、自分の気持ちを伝えて親の言う通りにはしないぞという自我が芽生えてきた成長の証なんです。その時は無理強いをしないこと。そのうえで、なぜ歯磨きが必要なのかを教えてあげてください。
この本では、食べ物カスが残ると、むしばいきんが活動して虫歯になって歯が痛くなってしまうというところを見せています。根気良く見せていると「仕上げをしてもいい」という日もありますよ。そういう時に「奥の歯もしっかり磨けて、むしばいきんがいなくなって良かったね」といってあげる。そんなことが何回か続いたら次第に仕上げ磨きが嫌でなくなると思いますよ。
どうして歯磨きが必要なのかな?理由を教える
編 子どもだから理屈を言ってもわからないだろうと、無理やりいうことを聞かせようとして歯ブラシを口に突っ込んでもうまくいかないのは当たり前かもしれませんね。子どもも一人の人間としてリスペクトすることが必要なんですね。
内田 その通りですね!
仕上げ磨きは、お父さんもお母さんも。
編 最後にココフル読者にメッセージをお願いします。
内田 絵本好きの子どもになるかどうかは、まさにこの時期に楽しい読み聞かせ体験をしたのかどうかが左右します。心を込めて語り聞かせてほしいなと思います。
そして、どうぞお父さん・お母さんもいろいろな子がいていいのだと安心してほしい。この本を読んで、どの子もみんな素晴らしいのだと思ってくれるとうれしいです。
編 なんだか、お話を聞くだけで安心しました(笑)。今日はありがとうございました。
終始、にこやかに丁寧にお話してくださった内田先生。絵本の読み聞かせで、親子で豊かな時間を過ごしてほしいという気持ちが伝わりました。
「これができない。こうしなくちゃ」というためにこの本を読むのではなく「こんなことをしているね。こんな子もいるね」と楽しく会話をしながら読んでもらえたらいいなと思いました。
お茶の水女子大学名誉教授、環太平洋大学教授、心理学者・学術博士、2021年文化功労者に選定。専門は発達心理学、認知心理学。長年にわたりベネッセ「こどもちゃれんじ」の監修に携わり、しまじろうパペットの開発、商品検証を手掛ける。NHK「おかあさんといっしょ」の番組開発やコメンテーター、子どもの絵本やビデオの監修などでも活躍。主な著書に『子育てに「もう遅い」はありません』(冨山房インターナショナル)、『子どもの文章:書くこと考えること』(東京大学出版会)、『子どもの見ている世界 誕生から6歳までの「子育て・親育ち」』(春秋社)、『AIに負けない子育て~ことばは子どもの未来を拓く~』(ジアース教育新社)ほか多数。