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赤ちゃんの「へその緒」が難病治療の未来を変える!?

2024.10.24

難病とは発症のしくみが明らかになっておらず、治療方法の確立していない希少な病気のことです。決して他人事ではなく、人口の約5%が難病になり、そのうちの7割が子どものうちに発症するといわれています。また、指定難病患者の年齢層をみると6割以上が勤労世代となっており、子育て世代のパパやママが発症することもあります。

発症すると、長い治療を要することになる難病。その新たな治療の一手として今、妊娠中にママと赤ちゃんをつないでいたへその緒(臍帯)に含まれる間葉系細胞を活用した薬の開発が進んでいます。

東京科学大学と臍帯由来間葉系細胞を活用した製薬事業を展開するヒューマンライフコード株式会社では、難治性自己免疫疾患の早期診断と最適治療の社会実装を目指して「生涯免疫医療実装講座」を2024年7月に開設しました。

企業と大学が力を合わせる産学連携で、難病治療のこれからを変えようとする取り組みをご紹介します。

小児の難病治療が抱える課題とこれから

難病はそもそも専門医が少なく、患者はまず専門医による診断や治療を受けることさえ難しいという現実があります。それに加えて小児の場合には、成人に比べて使える薬が少ないという治療の壁もあるといいます。長期にわたる治療は医療費の不安や、将来への不安も伴います。

東京科学大学の森 雅亮教授は、小児リウマチ(若年性突発性関節炎)・膠原病などの自己免疫疾患の専門医として子どもたちの治療にたずさわりながら、疾患レジストリ(難病プラットフォーム)をつくって患者数などの実態を把握。全国レベルで患者・家族と行政・保健所、そして地域の主治医と専門医とをつなぐネットワークをつくり、患者と家族の生の声を聞いて、小児の難病治療が抱える課題の解決に取り組んできました。

1.専門医の育成

難病は専門医が都道府県に1人もいないということがあり、診断や治療の大きなハードルとなっています。日本小児リウマチ学会では2004年から小児リウマチの専門医を育成する研修をスタートしました。2005年には全国に10都道府県で32名しかいなかった専門医が、2018年には28都道府県86名まで増えています。

2.診断・治療の標準化

一般小児科医に小児リウマチの知識を普及するために、「診断・治療のガイドライン(手引き)」を作成。ホームページを開設して、専門医による正確でかつ斬新な情報の提供も行っています。

3.小児に使える薬を増やす

成人のリウマチ・膠原病の治療に使われている薬を小児にも使えるよう、適用拡大にも取り組んでいます。子どもに強い薬を使うのは怖いと感じるかもしれませんが、小児リウマチは成人と比較して多臓器に障害が及ぶことが多く、しかも病期が成長期と重なるため、20年後30年後を見据えてしっかりと治療を行うことが大切なのだそうです。

4.成人への移行期を支援する

小児リウマチの早期診断、早期消炎治療により、治療を続けながら進学、就職、結婚など普通の生活を送れる患者が増えてきています。思春期、成人期を迎える患者を小児科から成人診療科(内科・整形外科)へとつなぐ、移行期支援が新たな課題となっています。

誰も取り残さない医療を目指して

「何の病気かわからない」「この治療でよいのかわからない」
希少疾患や難病の診断は難しく、発病から確定診断までに数年を要することも少なくありません。医学の進歩により革新的な新薬が開発されているにもかかわらず、診断や治療に詳しい専門医が限られているために、患者に届きにくいという課題もあります。

医師同士のネットワークを強化することで、不安を抱えたまま取り残される患者を減らそうとする新しい取り組みもはじまっています。

株式会社Mediiが手掛ける「E-コンサル」は、判断に困る難しい症例に出会った医師が、専門医にオンライン上で相談できる新しいプラットフォームです。これまでは知り合いなどを辿るしかなかった専門医へのアクセスを簡易化し、希少疾患や難病の診断を迅速化、適切な治療へと結び付けることを目指しています。

株式会社Mediiの代表取締役兼医師でもある山田裕輝氏は、自身も14歳のときに難病を発症しましたが、確定診断を受けたのは9年後だったそうです。膠原病内科の専門医となって、自分と同じように苦しむ人をなくしたいと、「E-コンサル」を立ち上げました。

Eコンサルティングのシステムはすでに欧米などでは導入されていて、専門医に相談したことで迅速かつ適切な診断・治療につながるというエビデンスも蓄積されているのだそう。日本でも2020年のスタート以降、登録医師数、コンサルティング数が増え続けているとのことです。

捨てられている臍帯(へその緒)で、難病治療の未来をひらく

間葉系細胞は赤ちゃんの臍帯や、私たちの骨髄や脂肪などにある細胞で、体内で炎症が起きたり組織が壊れたりしたときに、その部位に届いて免疫を調整してくれる働きがあります。

日本では、赤ちゃんのへその緒を大切にとっておく文化がありますが、お産のときに赤ちゃんから切り離されたへその緒の大部分は捨てられています。
ヒューマンライフコード株式会社では、この捨てられている赤ちゃんのへその緒(臍帯)を活用した、持続可能な再生医療細胞治療の開発に取り組んでいます。

代表取締役の原田 雅充氏によると、現在すでに白血病の骨髄移植後に起こる合併症や、新型コロナウイルス感染症による急性呼吸不全などの治療で臨床応用が進んでいるとのこと。

東京科学大学とヒューマンライフコード株式会社が共同研究で目指すのは、病気が重症化するよりも前のフェーズで治療ができる、先制的自己再生医療です。
使える薬が限られている小児~移行期の自己免疫疾患を早期に治療する、安全で効果的な一手となることが期待されます。

【お話を伺った方】
東京科学大学(旧東京医科歯科大学)
大学院医歯学総合研究科・生涯免疫医療実装講座ジョイントリサーチ講座教授 森 雅亮先生

小児リウマチ・膠原病、小児感染症全般が専門分野。 平成7年~平成10年まで、米国シンシナティ大学免疫学教室に国外留学。 平成12年に医学博士取得。 専門医は、日本小児科学会、日本リウマチ学会、日本感染症学会、日本アレルギー学会、日本化学療法学会で取得。

株式会社Medii
代表取締役医師 山田裕揮氏

日本最大となる医師専用オンライン専門医相談サービスである「E-コンサル」を運営し、限られたエキスパート専門医の知見の最大化に取り組んでいる。代表取締役医師である山田裕揮氏は、リウマチ膠原病専門医で、自身も免疫難病患者。

ヒューマンライフコード株式会社 
代表取締役社長、農学修士、経営学修士 原田 雅充氏

国産かつ備蓄可能な臍帯(へその緒)からの細胞製品を製造・開発し、現在でも確立した治療のない難病の治療・重症化予防の実現へとつなげることで、誰もが心豊かな生活を実現できる社会を創り出すことがビジョン。2019年「第1回東京ベンチャー企業選手権大会」最優秀賞&東京都知事賞受賞。東京都主催「スタートアップ・エコシステム東京コンソーシアム」運営の「ディープ・エコシステム」の支援対象企業に選定。2023年内閣府主催「第5回日本オープンイノベーション大賞」厚生労働大臣賞受賞、2023年経済産業省によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」選定。

この記事は、2024年10月16日に開催されたメディア向けラウンドテーブル「臍帯(へその緒)由来間葉系細胞(臍帯由来 MSC)活用の難病治療研究の現在地と社会実装に向けた課題解決」の取材をもとに作成しました。(ライター/山見美穂子)

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