2024年7月に新潟県の「佐渡島の金山」が新たに世界文化遺産への登録が新たに決定されましたが、これに遡ること2006年6月、群馬県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」が日本の中で14番目の世界文化遺産として認定されました。
認定前の社会科の教科書でも、明治5年(1872)に明治政府が設立した官営富岡製糸場による製糸業の近代化とその発展は、このレンガ色の建物の写真とともに習った方も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介したい「荒船風穴」は、認定された富岡製糸場と併記された「絹産業遺産群」の中に含まれます。養蚕や製糸業の発展にこの場所がどう寄与したのでしょう?そもそも「風穴」って何?という方もいるのでは。
予備知識を備え、現地に行き、その理由を学びつつ、涼しい体験に身を委ねてこの夏の猛暑を回避してみてはいかがでしょうか。
目次
東京大学大学院のHPでは「風穴とは傾斜地に堆積した岩礫や岩屑の隙間が地表面に開いた穴のこと」と定義しており、更に群馬県庁HPの「荒船風穴」の紹介ではそのメカニズムを「風穴から数百メートルほど離はなれた場所に岩が重なっている場所があります。この中には冬の間に凍った氷が残っています。この岩のすき間を空気が通り抜けるため、風穴に出るころには2〜3℃の冷気になるのです。」と説明しています。まさに、自然の力が生み出したクーラーですね。
またここは、有名な山梨県南都留郡富士河口湖町「富岳風穴」や山口県美弥市、秋芳洞内「秋芳洞・風穴」のような洞窟の形状ではなく、露出した傾斜地の岩の隙間から冷気が流れ出て、外気温が下がっています。
3つある風穴はそれぞれに涼しいのですが、中でも一番奥の1号風穴の前に立つと、エアポケットに入り込んだように身体全体が冷気でつつまれ、取材日が暑い日だったこともありとても快適な涼しさでした。
江戸時代までカイコを飼うことができるのは年1回でしたが、風穴でカイコの卵を冷やして貯蔵し卵のかえる時期をずらすことで、孵化の時期が不揃いであったものが一斉に孵化することとなり、作業効率が著しく向上し、年に数回カイコを飼うことができるようになりました。そのおかげで生糸のもとになる繭をたくさんつくれるようになり、生糸の大量生産につながったのです。
製糸業の近代化をもたらした官営富岡製糸場などに、大量の繭を供給する一翼をこの荒船風穴が担ったことになります。
残念ながら当時の建物は今はありません。木造で、かつカイコの卵を冷やした冷気は高い湿度を伴っていたため、施設があった当時ですら傷みが早く、富岡製糸場のレンガ造りのようなシンボリックな建物はなく、土台となった石積みが当時をしのばせています。
見学のスタート地点「荒船風穴」見学者広場の気温は34℃。
それが、3つある風穴の一番奥の1号風穴前の温度=15.1℃。これは外気温であり、冷風の生み出される風穴内部の温度はディスプレイ表示の15.1の上に表示されている2.2℃。2月~9月は約-2℃から4℃に保たれているとの表示からも、温度変化が少なくカイコの卵の温度管理に適していたことが見てとれます。
世界文化遺産の理解を深め、涼しさを体感するのに、まずは必要なことを箇条書きにして、順に沿って解説します。
(1) 11月までに行く。おすすめは、土・日・祝日に行くこと。(12月から3月の間は冬期閉鎖)
(2) 土・日・祝日は神津牧場のルートでくることが指定されている
(3) 小さいお子さん連れなら荒船風穴駐車場(P1)から荒船風穴見学者広場までシャトルバスを使う(土・日・祝日に運行)
(4) 現地駐在の解説員さんの話を聞くことを強くおすすめ
(5) 入場料大人500円、高校生以下無料。この夏は特別施策として荒船風穴駐車場(P1)から車で5分の神津牧場で引き換えるソフトクリーム400円相当の引換券を人数分もらえます。※予定数に達し次第終了になります。
神津牧場(群馬県甘楽郡下仁田町大字南野牧250)経由で「荒船風穴」をナビに入れると、800m手前で荒船風穴駐車場(P1)が現れますので、ここに駐車。
駐車場から荒船風穴までは800mですが、坂の傾斜がきついので、小さいお子さん連れなら大型ワゴンの土日祝限定シャトルバスがお勧めです。この場合、ベビーカーは自家用車に置いていきましょう。
解説員さんが風穴の場所ごとに
・風穴の冷風のメカニズム
・養蚕施設ができた理由、世界遺産に認められた業績、衰退した理由
などを解説してくれます。解説板を見るよりもはるかに理解が進みます。
ただし、小さいお子さんの場合、一番奥の風穴にたどり着く前に時間を持て余してしまうかもしれません。いっそ最初にお子さんの足で10分程度の道を歩いて一番奥の風穴に行き、自然が作る涼しさを体感してから戻って解説を聞き始めるのも、好奇心を持たせる手段のひとつでしょう。
訪問した時が雨で、お子さんの足元が心配な場合は、シャトルバスが停車する見学者広場に直結した冷風体験館があり、雨に濡れずに冷たさを体感することができます。
ご覧のように風穴への見学コースは整備されており、雨でもスニーカーなら問題なく行くことができます。歩道は人がひとりすれ違えるような幅で傾斜のある石段もあるため、サンダル履きは避けたいところです。
2024年6月1日から世界遺産荒船風穴を見学された方に駐車場から1.7km先の神津牧場の売店で利用できるソフトクリームまたは飲むヨーグルト引換券をプレゼントしています。
※予定数に達し次第終了になります。
風穴の冷気で体の外側から、神津牧場売店で名物ジャージー牛のソフトクリームで体の内側から涼しくなって、世界文化遺産の地での避暑は無事完了です。
そのあとに神津牧場でたっぷり遊ぶのもいいですね。
ココフルでは神津牧場も取材しています。こちらもぜひ読んでくださいね。
https://www.cocoful.jp/outing/entry_18015.html
(取材・文/Kunie)
名称 | 世界文化遺産「荒船風穴」 |
---|---|
WEB | https://www.town.shimonita.lg.jp/fuketsu/m01/02.html |
営業時間 | 9:30~16:00 ※入場の最終受付は15:30まで |
定休日 | 冬期12月から3月は閉鎖 |
住所 | 神津牧場:群馬県甘楽郡下仁田町南野牧250 ※ナビをご使用の方(土・日・祝日):神津牧場を行先に登録し、牧場内を通過して駐車場(荒船風穴駐車場P1)まで乗り入れてください。 地図を見る |
アクセス | 上信電鉄下仁田駅から車で30分 駐車場までの詳細ルート https://www.town.shimonita.lg.jp/fuketsu/m01/250.html |
料金・参加費 | 大人500円、高校生以下無料、下仁田町在住者無料 |
お問合せ | 電話:0274-82-5345 下仁田町教育委員会 教育課 文化財保護係 |